みなさん、こんにちは。世田谷区経堂にある ふなき矯正歯科経堂クリニック 会長の舩木純三です。今日は私の著書「グッドスマイルとアンチエイジング①よい歯と歯ならびで健康長寿」から抜粋して、健康長寿と歯についてお話します。
歯周病と全身の病気との密接な関係
日本の平均寿命は世界一です。しかし、人の助けがなく元気で過ごせる期間(健康寿命)と平均寿命の差は男性約9年と女性約12年です(2022年現在)。つまり、寝たきりや人の助けが必要な期間は男女共10年前後となります。そして、家族も含めて、それをサポートする方は大変な労力と経済的負担があります。現在、私は世田谷区の介護認定審査委員として、多くの介護の状況を拝見しています。この委員の仕事をするようになって、健康の大切さと健康のためには自分の努力が必要だということを改めて痛感しています。
歯と口は健康を見通す “ 窓 ”
皆さんの中には、歯科医院は歯が痛くなったら診てもらうところと思っている方が多いのではないでしょうか。しかし最近の研究で、歯の病気と健康寿命に直接関与する多くの病気との関係が次々の明らかになってきました。歯と口は全身の健康が見通せる“窓”であることがわかってきたのです。日頃から歯科医院で口腔内の状態をチェックしてもらい歯を健康に保つことは、アンチエイジングの重要な方法の一つであり、健康長寿に直結しているということです。特に口の中の汚れによって起こる歯周病は、糖尿病、脳血管障害、誤嚥性肺炎、心疾患、低体重児出産などの原因となります。
(1)糖尿病と歯周病
歯周病は歯周病菌による慢性炎症疾患です。症状はご存じの通り、歯茎が赤くなりブヨブヨして出血します。時にはこの炎症が歯を支えている歯槽骨を溶かし、悪化すると歯が抜けます。一方、この炎症が続くと炎症物質のサイトカインが血液を介して、肝臓、筋肉、脂肪組織に送り込まれます。その結果、このサイトカインがインスリンの作用を妨げ、血糖のコントロールが低下して、血糖値が上昇します。高血糖が続くと血液中の糖化たんぱくが増加して、免疫細胞がサイトカインを出すので、歯周病がさらに悪化するという悪循環になります。
(2)心臓、脳血管の病気と歯周病
心疾患も脳血管疾患もどちらも動脈硬化が進むことで発症する確率が上がります。歯周病との関わりは前述の糖尿病と同様に、歯周病菌が血液中に運ばれ、血管内に付着します。特に歯周病菌のPg菌には線毛が生えていて、血管を損害する物質を出すので、血栓が形成されやすくなります。さらに、歯周病菌の毒素(LSP)に対抗して、体の血清IgG抗体価が上昇し、膵臓から出るタンパク質(CRP)により、血管の内壁が厚くなって動脈硬化が進みます。
(3)誤嚥性肺炎と歯周病
本来、口に汚れや菌が入ると飲み込まず、咳や痰で排出する機構が働きます。ところが、高齢者になると排出能力(反射)が弱くなって、汚れや菌の一部がのどの奥から肺の入り口の気管に落ち込んでしまい、肺炎を起こします。これが誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎には「科学的肺炎」と「細菌性肺炎」があります。前者は嘔吐による胃の内容物が肺に入る場合で、後者は口の中の細菌などが肺に落ち込んで起こる「不顕性肺炎」です。誤嚥性肺炎を起こしやすい要介護高齢者では、口腔ケアを行って口の中をいつも清潔に保っておけば不顕性肺炎の大半は予防できるので、肺炎の発症を44%も減らすことができます。
(4)早産・低体重児出産と歯周病
1996年のアメリカの疫学調査では、歯周病のある妊婦は歯周病がない妊婦に比べて、早産、低体重出産が7倍多かったと報告されています。このメカニズムはまだ十分解明されていませんが、出産時の子宮の収縮に歯周病の炎症物質が関係しているのではないかと考えられているようです。
(5)喫煙と歯周病
タバコは多くの病気の原因であり、依存性があります。煙の中に含まれる4000種類の化学物質の中で、200種類が有害物質で、発がん物質も約60種類あるといわれています。タバコの有害成分は「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」が多くを占めています。この「ニコチン」は肝臓で代謝され「コチニン」という化合物になるのですが、この「コチニン」が歯周病を悪化させます。「コチニン」の半減期は19~40時間と長く、なかなか分解されません。それだけ障害も大きくなります。また喫煙中「ニコチン」はすぐに唾液や歯周溝(ポケット)にある浸出液に溶けて吸収されます。これが慢性刺激となり、末梢血管に作用して血流が減少し、ヘモグロビン量も下がります。つまり、歯肉の炎症も悪化して、歯と歯ぐきの間にある歯周ポケットも深くなります。また、「ニコチン」は組織の再生能力である線維芽細胞の機能を低下させ、治癒を遅らせますし、免疫力も低下させます。
(6)骨粗鬆症と歯周病
年齢が高くなると、骨の密度が低下して骨折しやすくなります。これが骨粗鬆症と呼ばれる病気です。骨粗鬆症になると歯を支えている歯槽骨の骨密度も低下し、歯と歯ぐきの間にある歯周ポケット内で炎症を悪化させる多くのプロスタグランジン(PGE2)が出現します。そして歯周病が悪化します。
(7)メタボリックシンドロームと歯周病
特定健診受診者数に占めるメタボリックシンドローム該当者及び予備群の人数・割合(2022年国民健康・栄養調査)は、男性43.4%(2.3人に1人)、女性13.3%(7.5人に1人)といわれています。メタボの人には歯周病患者が多いことが明らかになっています。では、なぜメタボの人に歯周病患者が多いのでしょうか。その理由は歯周病が肥満やメタボ診断基準の要素である血糖値や脂質代謝に影響を与えるからだといわれています。2008年米国国民調査では、17歳以上訳1万4000人の中で、重症の歯周病患者はメタボになっている率が1.74倍となっています。
(8)がんと歯周病
英国で40~75歳の男性約4万8000人を17年間追跡調査した研究があります。その研究では、歯周病の患者はそうでない人の1.14倍がんにかかりやすいと報告しています。その因果関係はまだ明らかにされていませんが、がんのリスクを歯周病が高めていると考えられます。歯周病は悪化しないうちに、早めに治療しておくのがよいでしょう。
(9)認知症と歯周病
現在、多くの研究者が認知症と歯周組織の評価について検討しています。まだ結論は出ていませんが、米国の研究ではポケットの深さが大きいほど、認知機能の低下がみられたとの報告があります。
(10)関節リウマチと歯周病
関節リウマチ(RA)は関節滑膜内に炎症が生じ、関節組織を破壊する自己免疫疾患です。歯周病患者では日常的に菌血症を起こしていて歯周病菌(Pg菌)が関節内に侵入し、自己免疫疾患が発症すると考えられています。新潟大学の研究では、550人のRA患者を対象として歯みがき指導等を行ったところ、RAが改善したとの報告があります。
まとめ
口を通して、細菌や花粉やほこりなどさまざまな病気の原因が体に入ってきます。そして、口を清潔にしておかないと、歯周病菌から誤嚥性肺炎を起こすなど、実に多くの病気になることが理解していただけたかと思います。すなわち、口は日常生活やビジネスで相手とコミュニケーションをとる社会的な窓であるばかりか、健康を左右する窓でもあります。健康長寿のために、お口のお手入れ(口腔衛生)や歯科医院での定期検診を忘れずにお願いしたいと思います。
※ふなき矯正歯科経堂クリニック(世田谷区経堂所在)理事長・舩木純三著書「グッドスマイルとアンチエイジング①よい歯と歯ならびで健康長寿」より抜粋転載。